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指圧の未来はヨーロッパにある!

2016年秋に行われた浪越指圧ヨーロッパ日本研修旅行時の小野田 茂(浪越指圧ヨーロッパ代表)氏へのインタビュー

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2016年10月30日、31日、11月1日に日本指圧専門学校で開催されたセミナーでは、ヨーロッパから“浪越指圧の本山”で学びたいという参加者が集まり、在校生との交流や、教員による指導の場が設けられた。そんな海外からの受講生たちを引率したのは、現地で浪越指圧の普及に尽力する小野田茂氏(浪越指圧ヨーロッパ代表)だ。

小野田氏にヨーロッパでの指圧の状況をたずねると、「ヨーロッパでは2度目の指圧ブームが来ています」とのこと。なぜ今、ヨーロッパで指圧が注目されているのか。小野田氏に現地での指圧の状況をうかがった。

――今回のセミナーはどういった経緯で開催されたのでしょうか。

このセミナーは、現在ヨーロッパ9カ国(スペイン、イタリア、オランダ、スイス、フランス、ベルギー、ドイツ、パレスチナ、パナマ)で浪越指圧を行っている団体「浪越指圧ヨーロッパ」に所属する人たちの、「“本山”である日本指圧専門学校で是非学んでみたい」という希望をかなえるために、だいたい4年ごとにセミナーを開催しています。今回はスペイン、イタリアから総勢80名もの参加者が集まりました。

 

――小野田先生はヨーロッパでどのような活動をされているのですか。

ヨーロッパで有名な指圧には「浪越指圧」と「禅指圧(増永指圧)」があります。そのなかでも浪越指圧の特徴は、施術者の身体を守るような動かし方、姿勢を重視している点です。施術者は何十年と治療を続けることで、やっとプロと名乗れるようになりますが、施術者の養成が十分でないと、1~2年で腰を痛めてやめてしまうということにもなりかねません。そういった基本的な部分を教える場所がヨーロッパにはありませんでした。

ですので、私はヨーロッパで治療院のほかに浪越指圧を教える学校を開き、プロの施術者を養成しています。例えば、スペインのマドリッドにある学校では、3年間で最低履修時間が1,200時間となるカリキュラムを組んでいます。ヨーロッパの人は日本と違って、理論が先に必要で、それから実技を学ぶという順番です。頭で納得しない限り手が動きません。現地の教育ではそういった点に注意しています。

ヨーロッパで指圧を学びに来る人の割合は、若い人が多い印象です。だいたい20~30代が多く学びに来ていますね。つまり、それだけ未来のある職業だと思われているということではないでしょうか。

 

――指圧の受療に関する状況はいかがでしょうか。

今、ヨーロッパでは2度目の指圧ブームが来ています。1度目は1964年、東京オリンピックで選手に帯同していた物理療法の先生が日本にいる間に浪越指圧を学び、母国イタリアで広げたことが始まりです。その後、禅指圧の流入をきっかけに大きなブームが起こりました。イタリアの歴代首相も、長い間うちの指圧を受療していたこともそのブームを支えた大きな要因ですね。

今回のブームは、パソコンやスマートフォンの普及が要因です。これらの過度な使用によって発症するストレートネックなどといった頚部に関わる症状から、ドライアイ、ひいては精神面での問題が流行し、それに対するアプローチとして、指圧が注目されています。これは近代的な文化が普及するなかで、人と人との触れ合いが減ったため、東洋医学の“手当て”という原始的な療法が求められているのではないかと思います。

また、指圧は文化としてではなく、医療として根づき始めているように感じます。現地では手技療法、マッサージや指圧に対する偏見のようなものはありませんので、指圧を受けて効果があったという声が自然と広まっていき、受け入れられるようになりました。

指圧が受け入れられやすかったそのほかの理由には、最初にヨーロッパへ鍼が伝わっていたので、すでに「ツボ」を刺激することが身体に影響を及ぼす、という概念が浸透していた背景もあります。鍼で刺されることや灸というものへ抵抗を覚える人はいますが、指圧は指で行うためそういった懸念はありません。加えて浪越指圧では、患者さんは患者着を身につけて施術を受けます。これも大きな特徴で、「マッサージは裸になるんじゃないのか」と思っている人にとって、抵抗なく指圧を受けられる点になっていると思います。スペインは乾燥しているため、オイルマッサージが流行っていますが、それは美容などが目的だと考えられていて、腰痛や頚部の痛みなどを扱うのが指圧だという区分が徐々に生まれている実感があります。

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――ヨーロッパの国々で働きたいと考えている日本人はどうしたらよいでしょうか。

一時期は労働許可書がなかなか取れませんでしたが、今は状況も落ち着いてきており、取りやすくなっているようです。指圧に対して「何だそれは」ということはなく、日本人という信用もあるので、労働許可書は取得しやすくなっていると思います。

しかし、正式な労働許可証を取るならば、やはり時間がかかります。ですので、最初はすでに現地で開業している治療院で働かせてもらい、それから何年かあとに独立するという形が一番の近道ではないでしょうか。今は個人でヨーロッパに来て開業する時代ではないと思います。それこそ私がヨーロッパに渡った32年前は、まだテロなどはほとんどありませんでした。今はそういった世界情勢から、一人ひとり入国のチェックが厳しくなっています。もちろん入国してはいけない、労働許可証が取れないという状況ではありません。「それでもやってやる」という気持ちがある人なら可能性はあります。

ただ、時々ワーキングホリデーなどで、短期間だけ働きたいという人がいますが、はっきりいってしまうと、5年間は働いてもらえないと、こちらは商売にならないので雇用するのが難しいですね。また短期間の滞在で、治療もそこそこに講演ばかりやってお金を稼ぎ、帰ってしまう人もいます。私は治療院がありますから、そうするわけにはいきません。そういった「逃げられない」覚悟も必要ではないでしょうか。

経済状況から見ても、ヨーロッパは決してよいとはいえませんが、その実、ヨーロッパには今も貴族がいるくらいですから、富裕層は多いです。そして、指圧やマッサージを受けるのは基本的にこの層ですので、指圧で成功する可能性は十分あります。

 

――指圧普及のために、今後、指圧がすすむべき方向性をどのようにお考えですか。

指圧を盛りあげていくためには、施術者はプライドを持って取り組むべきです。そうすれば、おのずと無免許の人たちは消えていくと思います。しかし、今はそういったメンタリティを持っている施術者が少ないです。まずは無免許の人を排除しようとするのではなく、指圧師がプライドを持って治療できるように勉強すれば、世間からも認めてもらえると思います。そうやってプライドを持てるような教育や、それを支える協会などがしっかりしないと、せっかくこれから若い子がどんどん入ってきても、その働き口がなければ免許を取っても意味がなくなってしまう。そういった意味で、日本指圧専門学校や、先輩方のメンタリティが今、問われているかもしれません。

日本指圧専門学校事務長の浪越雄二氏(写真左)と小野田茂氏(写真右)。同校前の浪越徳治郎氏の銅像前にて

日本指圧専門学校事務長の浪越雄二氏(写真左)と小野田茂氏(写真右)。同校前の浪越徳治郎氏の銅像前にて

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